夏になると思いだす不思議なことがある。
東京で一人暮らしをしていたころ、会社が終わってから荒川の河川敷をランニングするのが習慣だった。
荒川の河川敷は春になると桜がきれいだし、夏は大きな夕焼けが沈むのを橋の上から眺めることができる。
だんだん日が落ちて暗くなっていく辺りと、反対に瞬きだすビル群の光を見ていると、一日の疲れが汗と一緒に流れていくようだった。
そんな風にコンクリートジャングルの東京で、ひろい荒川の自然を感じると「なんか毎日幸せだな~」って漠然と思ったりした。
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“その日”も、いつもと同じように、仕事が終わってからウェアに着替え、私の楽園である荒川へランニングに行った。
河川敷を降り、川のそばまで行くと、
時々
ドブン
と大きな音を立てて、謎の巨大魚(たぶん鯉)が水面の近くで泳いでいる。
魚の生態には詳しくないが、水面に出て酸素を吸っているのだろうか?
「もし、あの巨大魚が人面魚だったらどうしよう…!」
そんな好奇心がむくむくと湧いてきて、もっと巨大魚に近づいて見てみようかと、一瞬考える。
「でも巨大魚の水しぶきが体に当たったら、ちょっと(いやかなり)キモイな…」
と冷静に思いなおし前に向き直ったその時だった。
スサササササササ
私の5メートル先を、ものすごい猛スピードで何かが横切った。
その何かは、川から這い上がってきて、歩道を挟んだ先の草むらへ猛突進していったのだ。
その何かは、となりのトトロに出てくる“まっくろくろすけ”と、全く同じ形をしていた。
※正確に言えば、目玉はなかった。
「…え?今の何?新種のネズミ?」と思ったがネズミにしては、移動が早すぎるし、しっぽが無かった。
そして、生物としての「くっきり感」が全くなかったのだ。
くっきり感ってなんかこう、うまくいえないけど、すごく目を凝らして見てたけど「何なのか実態を掴めない」という感覚なのだ。
私は慌てて“まっくろくろすけ”が突入していった草むらに近づいた。
しかし、川から出てきたのに足跡も、また、草をかき分けた跡も無かった。
しばらくその場に茫然とし、あれは一体なんだったのだろうと、少し怖くなり荒川を後にした。
その数年後、夫と出会い、荒川を散歩していた。
ふと、あの時まっくろくろすけを見たことを思い出した。
記憶がよみがえり、思わず
「私、今思い出したんだけど、荒川でまっくろくろすけを見たことがあるんだよね。」
と言ってしまったのだが、夫は
「あ、俺もサイクリング中に見た事ある。あれ何なんだろうね~!」
と普通に返してきたので驚いた。
ちなみにダンナさんが見たまっくろくろすけは、私が見たとのは逆で、草むらから川へ入っていったらしい。
まっくろくろすけは、川の近辺ではよく見られるものなのだろうか?
あるいは、川と草むらのあいだを行ったり来たりしているのだろうか?
それ以来まっくろくろすけには会っていないけれど、不思議な体験である。